耳に入ってくるセリフと箏の音だけを頼りに、しっかりと聞き耳を立てて聴く。普段、目で見るTVや芝居は、他者が表現する世界観の中に浸る。しかし 朗読会は、個々に目をつむって懸命に自分の想像力をめぐらし、その登場人物や時代背景などをイメージしながら楽しむ。だから、みんな脳裏で見る映像はひとりひとり必ず違う。明らかに、登場人物の顔なり体型などは、聞き手側の年令や好みによって全く違うだろうし、時代背景や価値観なども、捉え方は十人十色に違いない。そう思うと、聞き手の人生経験が大いに反映されるであろう脳裏の映像がどのようであったのか?他者にも確かめてもみたくなる。だから、朗読の世界は俄然面白い。また、江戸時代に生きた人間の姿、形、考え方が、現代に暮らす私たちとどれほど違うのか?迫ってみることも、長い年月の中で忘れかけた日本人の精神性を探し当てることになるのではないか?とも思えた。 佐江衆一氏の「江戸職人綺譚」より「昇天の刺青(ほりもの)」を朗読していただいた村上長子様、箏で効果音を演出いただいた小室洋子様には、感謝申し上げます。